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第9回 さらば国際通り

 去る6月5日に那覇文化テンブス館にて島唄カフェまるみかなー三周年記念ライブ「御祝え③(まるみ)ぬ世」を催した。まるみかなーで毎月行われる通常ライブを外で、拡大コンサートにしたらどうなるかという実験であった。お客さんへの感謝の還元だけではなく、まるみかなーらしく、アグレッシブに、これからの沖縄音楽に何らかの方向性を持たせるようなライブにしたいと思っていた。

 いざ会場を押さえ、出演者を絞り、予算をたててみるとなかなか厳しいものがあった。テーゲー・オフィス屋宜や喜屋武が協力するというのでやっと決心がついた。その内容は当日いらした方ならご存知のように、自分でいうのもなんだがイメージ通りのすばらしいライブに仕上がったと思っている。出演者を見てみよう。徳原清文、よなは徹、貴島康男、内里美香の四人。実力者・徳原清文をまずじっくり聴かせたい。これが私の最初に浮かんだ発想。そこに奄美の貴島康男の燃え滾ったマグマが貫入してきたら…。火消し役に、よなは徹と内里美香。という設定であった。となるとこのメンバーのまとめ役は吉澤直美(MC)しかいない。男三人の挑発に、美香のエネルギーが一気に行っちゃうと手がつけられなくなるので幕開けが必要だ。そこでまるみかなー臣下の登場というわけだったが、案の定、美香が走った。徹が手の内を見せ、康男がリズムを刻んだ。こうなると徳原清文は横綱相撲をとるしかない。しかし上手を取ると速かった、相手(観客)に有無を言わせないのだ。那覇の国際通りで、島唄カフェ・まるみかなーをやってよかったという瞬間であった。

 さて、八月末にて国際通りを出ます。しばらく休憩してエネルギーを蓄えて、また、まるみかなーを走らせたいと思っています。

2005年8月1日 沖縄藝能新聞『ばん』第15号より

第8回 「大罪!名誉のための出版」

 評論家で音楽プロデューサーの藤田正監修なるCDと一冊の本が出版された。CD『おきなわのうた~ROKレコード名作集~』(MYCD-35015)と『沖縄ミュージックがわかる本』(洋泉社MOOK)がそれだ。先ず後者であるが、空港のお土産品店のような本を手にして、またか、というのが感想。別に空港のお土産品店が悪いと言っているのではない。彼のように日頃からクサムヌイー(あえて訳しません)を言っていて、裏では権力的に振る舞っている(あえて書きません)人の志操の低い作品に、ダメなものにはダメだ、というべきであると考えるからである。

 「ロックや黒人音楽から沖縄音楽に入ったものとしては、歌の基本は『直球』であるとおもっている。」(沖縄タイムス「唐獅子」二〇〇二年二月二十日より)

 沖縄に関する彼の作品(CDや著作)で直球で勝負しているのが果たして在るというのか。例えば、故照屋林助の『平成のワタブーショー』(OMCA-1005)など、本当に質の高い林助音楽を創り上げたいという気持ちがあったのだろうか。彼は、照屋林助という人は沖縄にとって大変な「財産だ」と語っている(同上四月十七日)が、私にはただ中央とのパイプを利用しての美味しいところ取りのCDにしか写らない。まさに直球どころか録音したものをただ並べただけ。せめてBC通りのお土産品店くらいCDには仕上げて欲しかった。

 登川誠仁に関して「そのコク、味わい、技量…欧米で名をなす歴史的シンガーと一歩もゆずることがない」(同上)と書いているが、『スピリチュアル・ユニティー』(RES-45)は一歩もゆずらない代表作(そう言っている)だろうか。プロデューサーとして自分の力が微力でこんな質の低い作品になりました。と、このような本を出版する前に反省の言葉が一度はあってしかるべきだと思うのだがどうだろうか。そして次に彼の言うずっしりとする直球で勝負して欲しい。

 CD『おきなわのうた』はラジオ沖縄四十五周年を記念してまとめられた作品とあるが、そもそも元々ある音源を焼き直しを、これまで関わってきたラジオ沖縄の先輩方(指導もうけたろうに)差し置いて自らを監修者として名乗るような貧困な発想は沖縄にはないのです。少々礼節を欠いてでも全国の沖縄音楽ファンに、貴重な音源を提供したいという高邁な精神を、もし音楽プロデューサーの藤田正が持ち合わせているのなら、『琉球民謡大全集』(DTL101~108)の完全復刻盤ボックスセットにでもできただろうに。そうでなかったら、せめて全曲目リストと歌手くらいは資料として提供して、批評を乞うことはできたろうにと思う。沖縄芸能の先輩達の情熱の証であることへの敬意を払って欲しいものだと切に思う。マルタカ音源の編集にしても、そこにある態度は、私が発掘しました、私が選びました。これは上級編です、これは私の監修です。解説にしても、いつも美味しいもの取りばかり。自らの手柄(名誉)を強調するために貴重な音源を安易に利用している営為だと思われてもしかたない。

2005年6月1日 沖縄藝能新聞『ばん』第13号より