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第6回 御冠船夜話

久しぶりに「御冠船夜話」(若夏社1983)を読んだ。著者は戦前戦後を通じて沖縄芸能の発展継承に尽力した、故金武良章。在りし日の 首里の生活、風俗、年中行事などを語りまた歌聖といわれた父・金武良仁師を通して接してきた琉球王朝最後の「寅の御冠船」での演者、地謡など、琉球の芸道 の名人たちの芸能に対する姿勢を時に淡々と時に熱っぽく物語る。

まるで初めて目を通すかのような感動に次から次へと襲われる。改めて沖縄の芸能の奥深さを感じさせられた。琉球芸能を志すすべての人に読んでもらいたい名著だ。

昭和九年、金武良仁が初めてのレコード吹き込みを終え、大阪放送局から「かぎやで風」を含む四曲が放送されるとの連絡を受け、当時の首里のにぎわう当蔵 の「ふで屋」という文房具屋にて近所の知り合いなどが何となしに集いラジオに釘付けとなり、放送に聴き入るくだりなどは、古き良き沖縄のほのぼのとした情 景が感じられて、ついほくそ笑んでしまう。

さて、この度金武良仁が昭和九年から十一年にかけての録音、先ほどの「かぎやで風」や「仲村渠節」など含む、のSP盤レコードを音源に、これまた蓄音機 の名器中の名器でイギリス製のEMGエキスパート・オーバーホーン・マークⅩ(レコードも蓄音機も山城政幸所有)で再生して録音したCD「名盤復刻・名人 の呼吸が聴こえる 金武良仁全曲集」を作製しました。蓄音機の鉄針から伝わる振動音は七十年以上も前の三線の絃の音色を歴史の中の空気感とともに神経質に 再生する。

目の前にて名人・金武良仁が演奏しているような臨場感は、まさに基本であり、目的ともなろう。三月末、キャンパスレコードより発売予定です。

2007年3月27日 琉球新報夕刊「南風」掲載より

第5回 蓄音機コンサート

熊本行きを誘われたのは一年前のことであった。記憶の彼方にあった約束は一ヶ月前になって突然準備の催促が来た。その日はダブルならぬトリプルとブッキング(予約)があり、一年前の先行予約を優先することで決着がついた。

蓄音機コレクターの山城政幸氏の参加している、熊本博物館SPレコードと蓄音機を楽しむ会主催の「蓄音機でレコードを楽しむコンサート“沖縄音楽の特集”」の催しに県立芸大の与那覇有羽君を連れて三人で出席したのは二月の第四日曜日。

蓄音機というと最早忘れ去られた時代の産物として、骨董屋のオブジェとしてしか振り向かされないものとなっている。実際音質が悪ければ滅びるしかないわ けで、我々がよく耳にする日本で普及した通常の蓄音機は懐古主義を満足させるほどの音しか再生しない。私もそう思っていた。しかし人間の技術というのはそ んな単純ではないようだ。一九一0から二0年代にかけてのヨーロッパの技術の粋を集めた蓄音機たるや、純粋に肉声に近い音に加えて時代の艶かしさをも再生 することができるのだ。一度体験するとその虜になることはうなずけられるし、デジタルサウンド時代における最も贅沢な音質とも言えそうだ。

ともあれ、そういうことが博物館でしか味わえないというのも何だかさみしいことではあるが、沖縄音楽を待っている方々もいるということは嬉しい限りである。戦前戦後の二大レーベル、マルフク、マルタカを中心にSPレコードで琉球民謡 を共に鑑賞し、実際の三線の演奏で場を盛り上げることができた楽しいひと時は貴重な経験であった。帰りの電車で反省会と称して飲みすぎたのは三人とも少し浮かれ過ぎていたかもしれない。

2007年3月13日 琉球新報夕刊「南風」掲載より