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Vol.5「十九の春」、歴史的に考察する。

♪枯葉みたいな我がさだめ 何の楽しみ無いものを
好きなあなたがあればこそ いやなこの世も好きとなる
ギブソン・レコード『十九の春(与論小唄)』 歌・五条雅子― 

「与論小唄」の元になった「与論ラッパ節」というのがあり、与論島で戦前の流行り歌だ。
九州の炭坑出稼ぎ帰りの島人(シマンチュ)が流行らせたという。

「与論小唄」の歌詞の四番:
♪磯の浜辺の波静か 二人手に手を取りかわす
死んだらあなたの妻ですと 女心の悲しさよ

ところで、津波恒徳歌う「与論ラッパ節」の最後の歌詞ではこうである。  ♪磯の浜辺は波静か 二人手を取り幸せに
死んでもあなたの妻ですと あわれ十九の縁結び
―あばさーレコード『与論ラッパ節』-

津波恒徳(現琉球民謡保存会会長)は、昭和35年ごろ与論を経由して奄美の島々を旅した。
そのとき「与論ラッパ節」と出会った。
沖縄のナークニーのように、次から次へと即興で歌詞が涌き出てくるのに驚いた。
さっそく採集し、沖縄へ持ち帰った。
復帰の少し前頃、民謡クラブ『うみないび』で津波恒徳は民謡ショーをしていた。
その頃一緒にショーをしていた本竹裕助が、採集していた歌詞を2人で直し直し歌っていた。
「吉原小唄」とか「ジュリグヮー小唄」などと言われていた歌をレコードにするにあたり、そのようなタイトルではダメだということでディレクターをしていた。
キャンパス・レコードのビセカツが、「十九の春」とタイトルにした。
デュエットしている津波洋子は、津波恒徳の娘である。
(…「十九の春」…唄:本竹裕助・津波洋子
「ジュリグヮー小唄」なる歌は戦争中に兵隊が残した歌ということらしいのだが、「与論小唄」とクロスするようだ。
となると、その元祖はというと唖蝉坊(あぜんぼう)の「ラッパ節」ということになりそうですが、その真為は如何に。

十九の春 (与論小唄)
秋山 紅葉:作詞/加納 弘:曲 枯葉みたいな 我がさだめ
何の楽しみ 無いものを
好きなあなたが あればこそ
いやなこの世も 好きとなる
あなたあなたと 焦がれても
あなたにや立派な 人がいる
今更私が こがれても
磯の浜辺で 泣くばかり
一年まてまて 二年待て
三年待つのは よいけれど
庭の草木を 見てごらん
時節かわれば 色変わる
磯の浜辺の 波静か
二人手に手を 取りかわす
死んだらあなたの 妻ですと
女心の 悲しさよ
『十九の春(与論小唄)』 歌・五条雅子:ギブソン・レコード GP777
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Vol.4「十九の春」、知られざる名盤を鑑賞する。

前回(vol.1まるみかなーってどういう意味ですか?)解説できなかったレコードの解説を少し…。 昭和16年、日本が大戦に突入する年に録音された、普久原京子の「ケーヒットリ節~マルミ加那節」(太平丸福レコード)は昭和35年(1960)に復刻された。
普久原京子は、戦後復興期の沖縄の若手女性歌手(歌手を目指す人)の目標であった。
1940年に普久原朝喜氏と結婚し、夫妻は精力的にレコード政策に取り組んだが、42年には戦時下でその製作中止を余儀なくされている。
丸福レコード35周年・名盤シリーズの復刻では、A面に「マルミ加那」、B面には最初の夫人の鉄子を亡くした悲しみを唄った「下千鳥」となっている。
島唄ファンなら一度は聴いてみたい唄のひとつである。
1962年「片思い」でデビューし、今では沖縄を代表する女性歌手の大城美佐子にとっても、もちろん普久原京子は手本であり、目標でもあった。
大城美佐子歌う「汀間当」(「絹糸声」:あばさーレコード)の「まるみかなー」も一度は聴いてもらいたい。 

さて、今回取り上げるレコードは、島唄ファンならずとも誰でも知っている「十九の春」だが、そんじょそこらの(失礼)「十九の春」ではない。
1975年コロムビアより出た、未だデジタル化されていない超入手困難な音源なのだ。
『決定盤 十九の春/二見情話』知名定男・大城美佐子
相方が知名定男。プロデュースは竹中労。
ジャケットを見ていただきたい。
まさに決定盤。
ウタムチ(イントロ)の最初のテンから、まわりの雰囲気を一瞬にして変えてしまう音。
ややハスキーな大城美佐子のシンコペートした出だしの声は、何ともいえません。
それにレスポンスする知名定男の美声。
ここでお聞かせできないのが残念ですが、文字数が尽きたのも残念。

十九の春
本竹裕助補作詞/沖縄民謡/佐々木永治編曲 

私があなたにほれたのは ちょうど十九の春でした
いまさら離縁というならば もとの十九にしておくれ

もとの十九にするならば 庭の枯をみてごらん
枯木に花が咲いたなら 十九にするのもやすけれど

みすて心があるならば 早くお知らせ下さいね
年も若くあるうちに 思い残すな明日の花

1銭2銭の葉書さえ 千里万里と旅をする
同じコザ市に住みながら あえぬ吾の身の切なさよ

主さん主さんと呼んだとて 主さんにゃ立派な方がある
いくら主さんと呼んだとて 一生そえない片思い

奥山ずまいのウグイスは 埋めの小枝で昼寝して
春がくるような夢をみて ホケキョホケキョと鳴いていた

『決定版 十九の春/二見情情話』 知名定男・大城美佐子 日本コロンビアレコード CD 253-A
2002年7月8日